「禅と膳」とは

「禅と膳」とは、日本のこころと文化を象徴する言葉です。日本人の心性の支柱である禅、そこから生まれた書や水墨画、作庭といった文化芸術、そして茶道。茶の湯のもてなしが「懐石料理」を生み、日本独特の食文化を形成していきました。いずれも中国から伝わり、深化し、日本に根付いた独自の精神文化と言えます。そこに触れれば、「本物の日本」を感じ取れるはずなのです。 

 

 日本には、現在まで伝わる3つの主要な禅宗があります。12世紀に道元が創始した曹洞宗と、同じく12世紀に栄西が伝えた臨済宗、それに、17世紀に隠元がもたらした黄檗宗がそれです。禅は何世紀にもわたり、日本人の心に共鳴し、精神的美学として浸透、様々な芸術に影響を及ぼしてきました。 

 

 中でも茶道は、「茶禅一味」と言われるほど、作法の一つ一つに禅の精神が染み渡った芸道と言えるのではないでしょうか。茶碗をはじめとする茶道具は日本の伝統工芸を洗練させ、床の間の書や花も茶室と一体となって表現されます。様式に則って進められる茶事を含め、茶道はまぎれもなく日本の総合芸術なのです。 

 

 そして、茶道から生まれた「懐石料理」は、禅僧院で摂られていた「精進料理」に相通ずるものがあります。一汁一菜、一汁三菜といった組み合わせでは、穀物、野菜、海藻が中心で肉は使われません。もともと、日本人の食生活は野菜中心であったこともあり、禅がもたらした「懐石料理」や「精進料理」は、今や日本料理の代表格として受け入れられています。 

 

21世紀を迎えてもなお修行の場であり続ける禅寺が現存し、禅から派生した料理は、日本の食文化に収れんされ、今も市井の料理屋で味わうことができるのです。そこに日本文化の何たるかを体験できる機会があります。「禅と膳」とは、真の日本を知り、体感する旅へと誘(いざな)う言葉なのです。